観たいと思っていたけれど、映画館に行く機会がないままになっていた映画『Michael/マイケル』。
ところが今夏に搭乗した国際線(British Airways)の機内エンタメに入っていたんです。
そのとき日本ではまだ映画館で上映中。
機内エンタメには日本語字幕版はなかったのですが、英語字幕版で観ました。
私、英語の聞き取りは苦手なんですけど、文字になると割と大丈夫なんですよね。
古い英語教育を受けているので…。
今回は、その感想を書いてみます。
誰かの半生を描く難しさ――誰の視点で見るか?
今回の映画は、マイケル・ジャクソンの幼少期から1980年代後半までを描いた伝記映画です。
この映画について、マイケルに近しい人物から「事実と異なる」「美化されている」といった批判が出ていることは知っていました。
ただ、私はもともとマイケル・ジャクソンについて詳しいわけではありません。
私がマイケルを認識するようになったのは、小学生くらいのころだったと思います。
その後、私の記憶に残っているのは、彼の音楽やパフォーマンス以上に、性的虐待疑惑や美容整形などがセンセーショナルに取り上げられる姿。
私にとっては長い間、「世界的スーパースター」であると同時に、「何かと世間を騒がせる海外スター」という印象の強い人でした。
2009年、睡眠のために使用されていた麻酔薬プロポフォールの急性中毒によって50歳で亡くなったことも、大きなニュースになりました。
そのため今回の映画を観て、幼いころからJackson 5として活動し、そこから一人のアーティストとして世界の頂点へ昇り詰めていくまでの過程を、私は初めてまとまった形で知りました。
ただし、ここで難しいのが「伝記映画」というもの。
映画を観ていると、知らない私はどうしても、
「こういう人生だったんだ」
と、描かれていることをそのまま事実として受け入れてしまいます。
でも実際には、同じ出来事でも、そばにいた人によって見え方や記憶は違うでしょう。
誰かの半生を一本の映画として描くって、とても難しいことなんですね。
今回の作品を手がけたプロデューサーの一人は、Queenのフレディ・マーキュリーの半生を描き、世界的大ヒットとなった『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)もプロデュースしたグレアム・キング氏です。
『ボヘミアン・ラプソディ』にも史実とは異なる部分があります。
ただ、こちらはQueenのメンバーであるブライアン・メイやロジャー・テイラーらが制作に協力。
フレディの尊厳を守りながら、Queenというバンドの魅力も伝わる作品となり、世界的な大ヒットになりました。
映画をきっかけにQueenの楽曲も再び広く聴かれるようになりました。
一方、今回の『Michael/マイケル』は少し複雑です。
Jackson 5として一緒に活動していた兄たちを含め、マイケルの兄妹には映画に協力的な人が多く、マイケルを演じているジャファー・ジャクソンは、実兄ジャーメイン・ジャクソンの息子。つまりマイケルの実の甥です。
その一方で、実妹ジャネット・ジャクソンは、自分を映画に登場させるという申し出を断っています。
また、マイケルの娘パリス・ジャクソンは、初期の脚本を読んで意見を伝えたものの採用されず、その後は制作から距離を置き、「不正確な部分」や「嘘」があると批判しています。
なかなか複雑な状況です。
そのこと自体が、世界的スターにまで昇り詰めたマイケルを取り巻く人間関係の複雑さを、死後もなお映し出しているように感じました。
父親の厳しさ、そして「毒親」とも思える姿
今回の映画で特に印象に残ったのが、父ジョー・ジャクソンの存在です。
子どもたちに厳しいレッスンを課し、Jackson 5として世に送り出した父親。
その指導には体罰もあり、マイケル自身も後年、父親に対する恐怖について語っています。
子どもらしく遊ぶ時間もほとんどなく、幼いころからひたすらレッスンと仕事。
大人になったマイケルが「失われた子ども時代」について繰り返し語り、子どもが喜ぶような遊びやNeverlandの世界に強く惹かれた背景には、こうした幼少期の経験もあったのでしょう。
現代の感覚で見ると、「毒親」という言葉が頭に浮かんでしまう父親です。
そんな父親の支配から離れ、マイケル自身の才能でソロアーティストとしてやっていくには、音楽プロデューサーや弁護士など、彼を支えてくれる大人たちの力も大きかったと思います。
ただ、映画を観ながら、私は少し別のことも考えました。
彼を支える仕事上の人たちは、もちろん彼の才能を信じていたのでしょう。
でも同時に、マイケルが成功することは彼ら自身の仕事や利益にもつながります。
それ自体はビジネスなのだから当然のことです。
けれど、そう考えると、
「世界的スーパースター、マイケル・ジャクソン」ではなく、
ただの一人の人間としてのマイケルを、見返りを求めず支えてくれる人はどれくらいいたんだろう?
と思ってしまいました。
父親も、プロデューサーも、弁護士も、マネージャーも、マイケルの才能によって人生が変わっていく人たちです。
では、何者でもない一人の息子としての彼を、ただ愛して支えてくれたのは誰だったのか。
結局、母親だったのかな。
そんなことを、この映画を観ながら考えました。
もちろん、これも映画を観た私の一つの感想にすぎません。
今回の作品が描くのは、マイケルの幼少期から20代、1980年代後半ごろまで。
ここから30代、40代、そして50歳で亡くなる2009年まで、まだ約20年間があります。
そして、その20年間には結婚、子どもたちの誕生、性的虐待疑惑、刑事裁判、そして突然の死など、非常に複雑な出来事が続きます。
続編では、それらを誰の視点から、どのように描くのでしょうか。
特に、数々の疑惑をどのように扱うのか。
今回の映画以上に難しい作品になるのではないかと思います。
続編は現在制作に向けて動いている段階とのこと。
公開されたら、今度は映画館で観てみたいと思っています。

